Monster rhapsody01
1話・『王女の鎮魂歌』
レガートは、男爵家の三男として生まれましたが、
母親が病気で亡くなってから父親はお酒に逃げるようになり事業に失敗したのです、
やがて兄たちは家門を見限り早々に家と父親を残し出て行ってしまったのです。
父親の借金で家門にはお金がなく名ばかりの男爵家
生活費をまかなうために日々、仕事を探す必要がありました。
彼は音楽と作曲に情熱を抱き、夢は音楽家として成功することでした。
しかし、財政的な制約から音楽教育を受けることが難しく、
幼いころに母から学んだこと以外は独学で音楽の技術を磨いていました。
何年も壁の修復できていない屋敷の一角にある小さな音楽室
幼い頃の音楽にあふれ楽しかった家族の思い出を浮かべながら日夜、
母の大事にしていた飼い猫のスラーを傍らに1人作曲に取り組んでいました。
ある赤い月の夜、レガートは作曲に行き詰まり、気分転換に音楽室の外に出ました。
夜風は冷たく、庭園の手入れのされていない葉は静かに揺れ、自分の足音だけが聞こえます。
両手に息を吹きかけあと少しで完成しそうな書きかけの曲のフレーズのことを考えながら歩いていると
飼い猫の影が見えたような気がしたので
「スラー、どこに行くんだ?」レガートが急いで追いかけると
突然、大きな黒い渦のような穴が突如として目の前に現れ、その力に引き寄せられるように吸い込まれてしまいました。
・・・・
レガートが目を覚ました時に
広がっているのは見たこともない美しいく幻想的な世界でした。
赤い空、白い月が6つ、
光と闇の交差するような混沌の世界、
そしてどこからかかすかに聞こえてくる美しい音楽。

レガートは驚きと不安を感じながらも、あたりを見まわすと、
飼い猫のスラーがその音に導かれるかのように進んでいきます。
レガートも後を追いかけました。
森を抜けるとお城が目の前に現れました。
お城に近づくにつれ、音楽はますます美しく、そして切なく感じられたのです。
そして、城は古城ではありますが敷地は広く
イバラの咲き乱れる庭園があり奥に奥にすすむと
開けた広大な土地に無数の墓石があり、その中心にガゼボのような建物がありました。
猫を追いかけていたレガートは、墓石の間を抜け物建物にたどり着くと、
そこには、少女が一人、ピアノを弾いていたのです。
少女は長い茶色のストレートの髪に赤い瞳を持つ美しい容姿をしていました、
純白のドレスを身にまとい、ピアノの鍵盤を優雅に弾いていたのです。
彼女の音楽は、光とと闇の調和を奏で、この幻想的な世界の美しさを表現していました。
レガートはその場に立ちすくみ、彼女の音楽に心を奪われました。
「なんて素敵なんだ…」とレガートが口ごもると、
少女は演奏をやめ、レガートに気付いて振り返ったのです。
彼女の赤い瞳は彼を見つめ、微笑みました。
「君は誰?」とレガートは尋ねました。
彼女は静かに立ち上がり、ピアノの前から歩み寄りました。
「私はフィーネ。ヴァンパイアの王女フィーネ。」彼女がそう言うと、
みるみる髪は金色のウエーブに代わり目は赤い瞳の中にエメラルドの輝きをともし、
背中からは真っ黒な蝙蝠のような羽を広げ、2回ほどはばたかせました。
まさにヴァンパイアの王女である威厳をレガートに示したのです。

突風が巻き起こり砂が目に入るのを防ごうとしたレガートですが、
すぐ、彼女が元の姿に変わったのに気づきました。
「この空間のせいで力が出ないわ。」彼女は肩をすくめ
「あなたははどこから来たの?」と続けました。
「僕はレガート。作曲をしながら庭を歩いていたら突然、猫のスラーと黒い渦に吸い込まれて、
この世界にきてしまった。」と伝えました。
「そう、よくあることだわ。この世界の力のある魂に導かれたのね。」
フィーネは自分になつく猫のスラーを抱き上げ指先で撫でて答えます。
レガートは彼女が演奏していた美しい音楽について質問すると、
「あれは私の音楽。世界の魂を慰めようをして、ここで演奏していたら永遠の狭間の墓場に囚われてしまった。」
「もうずっと魂たちがこの場を離れてくれない。ここを出るのに何かが足りないの…」
フィーネは悲しそうに微笑みながら言いました。

レガートには彼女の音楽を通じて
人間とは違う王女の苦痛、苦悩、愛しい仲間を見送らなければならないでも、
永遠にそれが自分自身にはできない辛さが伝わっていたのです。
美しいですが、悲しい調べの中に。
「素晴らしい音楽だったよ。」
「ぼくは、音楽家をめざしているから、感銘を受けた。」
レガートはフィーネに手を差し伸べました。
「一緒に音楽を。」
フィーネは慰めてくれる彼の言葉に喜びの表情を見せました。
レガートはフィーネの手を取り、ピアノの前にたちそして、フィーネの横に座ります。
スラーはフィーネの足元におりて聞き耳を立てています。
フィーネが再び鍵盤に触れ、音を奏でます。
美しく悲しい旋律…。
まるで冷たい氷のようなでも限りなく透明で美しい…。
レガートはその音楽に耳を傾け、彼女の旋律を追いかけるのです。
ピアノの音が次第にフィーネの音色と調和し始めると、
レガートは永遠をを生きる彼女の為に
今、彼女とこうしているこの瞬間がが幸せなのだという感情を音楽に注ぎ込んだのです。
時は永遠に流れていく悲しい世界から幸せな世界へ
すると
旋律が変化していくにつれ、
ピアノは黒檀から次第にクリスタルに変化し、輝き、美しい音楽が世界の夜空に広がりました。
悲しい曲は魂たちをとどまらせていたのでしょう、
永遠を生きるフィーネには悲しみの感情を
永遠と繰り返していることがわからなかったのです。
今まで氷の世界だったのが、氷が次第に解け、やがて光が差し春が来たように・・・・
音楽は月を更に輝かせ、星座を踊らせ、周囲の植物を生き返らせ、世界の美しさを引き立てました。
時間のたつのも忘れ演奏を続け、音楽に身を委ね、
フィーネとレガートの音楽が空に響き渡り、世界の夜は二人の演奏に包まれました。
「これはすごい。」とレガートは言いました。
フィーネは微笑みながら答えます。
「この世界で音楽は世界の力の源、私たちは音楽を通じて魂を高次元に開放するの。」
「魂たちが新たな世界に帰る。」
レガートとフィーネの周りには多くの魂が集まり光り輝き空へ帰っていきます。
彼らの演奏が終わると、フィーネはレガートの手を取り感謝の言葉を述べました。
「こんな演奏ははじめて…。」
そういうフィーネの髪はいつの間にか黄金に輝く金色に変化していました。
風が彼女の長い髪をなびかせ美しい透明な肌がより引き立ちました。
赤い瞳にはエメラルドの輝きが灯りその瞳に引き込まれそうです。



「ありがとう、レガート。」
「こちらこそ楽しかったよ、フィーネ。」レガートは少し照れて様子で答えました。
いつのまにか空の色が変わりもうすぐ夜が明けます、
スラーの姿はどこにもありませんでした。
ガゼボは静まり返り、クリスタルに輝くピアノがあり、墓地の周りには音楽の余韻にゆらゆらと揺れる
最後の魂が、美しい空に向かって消えていきました…。
ーレガートとフィーネのお話ー
続く

